大新聞の社長追放作戦は失敗?写真週刊誌に不倫暴露の効果は未知数、次の手も用意
「知っちょる。時間が足りんかったんじゃ。じゃがな、日亜の株主は社員とOBだけじゃから、株主をまとめよれば、臨時総会や取締役候補を株主提案する手もあるからのう」
「うちはどんなんですか」
黙っていた深井が初めて口を開いた。
「大都はな、毛並みのええ丹野(顕二・常務執行役員名古屋駐在)君が取締役候補に名を連ねちょる。じゃから、総会後でも“松野引き摺り降ろし”の動きがでよれば何とかできよるかもしれん」
二人は太郎丸の唯我独尊ぶりに顔を見合わせた。そして、吉須が重ねて質した。
「どっちにしても、この6月の総会で村尾と松野を追放できないわけですよね。それで、どうして『目的は果たせた』ことになるんですか」
「『布石が打てた』と言い直したっちゃろ。それにじゃな、松野と村尾の二人はお互いに疑心暗鬼になっちょる。もう大都と日亜が合併しよることはないんじゃ。合弁で新媒体を出す話も雲行きが怪しくなっちょる。それでええんじゃ」
「それじゃ、不倫暴露はジャーナリズムのためなんかじゃなくて、国民新聞の私益じゃないですか。そんなことに協力したんじゃないですよ」
「それは“副産物”じゃ。必ず退陣に追い込むんじゃ。待っちょれ」
太郎丸は、むっとした表情で声を荒らげた吉須を宥めるように破顔一笑してみせた。
「僕も会長が自分の会社のために動くような人間だと思っていません」
吉須は言い過ぎたと思ったのか、話題を変えた。
「でも、僕はこの暴露作戦、無理があったと思うんです。大地震という未曽有の災害に見舞われ、日本の歴史が断絶するような時にやるべきじゃなかったんじゃないですか」
「お主はどうすりゃよかったといいおるんじゃ」
「6月末の定時株主総会に拘らず、もっといい写真が撮れるまで待てばよかったんです」
「ええ写真がいつ撮れよるかわからんじゃろ。じゃから、『布石が打てた』と言っちょるんじゃ。二人を“追放しよる”二の矢、三の矢を打つんじゃわ。お主らの労は無駄にせん」
太郎丸が言い繕うとしても、吉須は簡単に引き下がるような男ではない。
「『深層キャッチ』発売翌日の5月31日付の大都、日亜の朝刊をみていないんですか」
「お決まりの記事じゃな。読んじょるわ。事実無根で謝罪と訂正記事を求めちょったな」
「そうです。『誠実な対応がなけば法的措置を取る』と書いていました。きっと『深層キャッチ』は『取材には自信があり、謝罪も訂正も必要ない』と回答をしているんでしょう?」
「そうじゃ。期限は『2週間』じゃったが、期限内に回答をしたと聞いちょる。今日は6月17日じゃ。期限を4日も過ぎちょるが、大都も日亜も動いちょらん。きっと裁判など、起こせんぞ」