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大塚将司「【小説】巨大新聞社の仮面を剥ぐ 呆れた幹部たちの生態<第1部>」第5回

巨大新聞社、外部からのチェックゼロで社長のやりたい放題!?

 いずれにせよ、社主の存在しない新聞社の経営者は、「怖いものなし」の環境に置かれているわけだが、のどに刺さった小骨くらいの存在はある。それがOB株主である。

 現役社員の株主は経営陣が人事権を持っているので、99%刃向かう心配はない。だが、退職したOB株主は現役社員と同じというわけにはいかない。だから、大都にしても日亜にしても、定年退職した社員を、世間並みを逸脱した、破格の捨て扶持で飼い殺しにするのだ。

 OBには、「札びらで頬を叩く」ような経営陣の行為と、不快に思う者もないわけではない。しかし、背に腹は代えられないのが実情で、経営陣に眉をひそめたくなるような行為があったり、経営のかじ取りがおかしいと思ったりしても、見て見ぬふりをすることが多い。

 それでも、OB株主は経営陣に刃向かうリスクがまったくないとはいえず、唯我独尊、傍若無人に振る舞うことに慣れた新聞経営者にとっては、常に気になる。特に、合併のように新聞社の行く末に関わる重大な経営問題であれば、記者出身のOBは、ああでもない、こうでもないと言い出す可能性が高い。

●OBという名の「のどに刺さった小骨」

 だから、OB株主はのどに刺さった小骨のような存在なのである。そのまま放置しても命に別条はないが、取り除かないと気になって仕方がないので、大抵は小骨を取り除く。だが、OB株主は小骨のようには取り除けない。

 村尾の説明に今一つ納得できない風情の松野は、ちゃぶ台のビールを取り上げ、独酌(どくしゃく)した。一息に飲み干すと、突き出しの和え物をつまみながら、続けた。

 「社主のいないところは、みな同じなのかね。君の所だけの特殊な事情はないのかい?」
 「国民新聞もOB株主は気になる存在ですが、うちだけの特殊な事情もあります」
 「特殊な事情?」
 「うちは合併会社だからです。旧日々出身と旧亜細亜出身で考え方に違いがあります」
 「旧日々はリベラル路線だったな。対米協調路線の今の日亜の姿勢に不満があるのかね」
 「それはあります。でも、旧日々出身のOBの持ち株はあまり多くないんです。拒否権の心配はありません」
 「それじゃあ、旧亜細亜のほうか」
 「そうなんですよ。旧亜細亜OBが、やっかいなんです」

 村尾はこう言うと、合併した日亜の資本金や株主構成がどう変わったかを解説し始めた。

●後を引く、過去の合併

 昭和45年、旧日々と旧亜細亜が合併した時、両社の資本金はそれぞれ2億円、1億円、発行価格(旧額面)は50円で、発行済株式数はわずか400万株、200万株だった。合併に際して、存続会社にどっちがなってもよかったが、歴史が古く、規模も大きい旧日々が存続し、旧亜細亜はなくなった。

 合併時点で、旧日々の部数は270万部だった。対する旧亜細亜は80万部で、旧日々の部数が旧亜細亜の3倍以上だった。存続会社が旧日々になって当然だったわけだが、経営状況に格差があれば、合併比率も問題になる。しかし、当時の両社は多額の累積損失を抱え、債務超過スレスレだった。文字通りの対等合併でだれも異論はなく、旧日々の株主同様に、旧亜細亜の株主にも一株持っていれば、日亜株一株が与えられた。

 合併前の両社は戦前から社主が存在せず、社員・OBですべての株式を保有する形態の新聞社だった。従業員数は旧日々4000人、旧亜細亜2000人、OBを含めた株主数も同じく2対1だった。要するに、日亜は合併時点で株主数だけでなく、その保有割合も旧日々OB・社員が3分の2、旧亜細亜OB・社員が3分の1の株式を持つ株式会社だった。

 この株式保有割合が今日まで続いていれば、左翼的なジャーナリストが多かった旧日々出身の株主の、対米追随路線の現在の日亜の報道姿勢に対する不満が燻り、経営陣の目の上のたんこぶになっていたはずである。

 松野は話し好きだが、黙って聞くのは苦手である。先をせかすように、嘴をはさんだ。

 「どうして旧日々OBの株主は、心配しなくてもいいんだい? 君の話は前置きが長すぎるよ。昔のことはいいから、今はどうなんだ」
 「まあ、待ってください。先輩」

 村尾は、先をせかす松野のグラスと自分のグラスにビールを注いだ。

 「一杯やってください。あと少しですから。最初から説明しないと、わからないんです」
 「そうか。じゃあ、続けろよ」
(文=大塚将司/作家・経済評論家)

※本文はフィクションです。実在する人物名、社名とは一切関係ありません。

※次回は、来週11月17日(土)掲載予定です。

【過去の連載】

第1回『新聞を読まない、パーティー三昧…巨大新聞社長の優雅な日々』
第2回『社用車で演歌を唸り、ホテルのスイートを定宿にする巨大新聞社長』
第3回『ウェブ化で傾いた大手新聞、合併にすがる社長同士が密談!?』
第4回『巨大新聞社を揺るがす株事情、マスコミは見て見ぬふり…』

●大塚将司(おおつか・しょうじ)


作家・経済評論家。著書に『流転の果てーニッポン金融盛衰記 85→98』(きんざい)など

BusinessJournal編集部

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