日本のこの四半世紀の物価変動は異常といっていい。この間、世界のほとんどの先進国は、程度の差こそあれインフレだった。ところが、日本だけは基本的にデフレ。
なぜ、日本だけがデフレなのか。いろいろな要因があるが、大きなものは生産過剰と競争の激化だろう。車や家電、情報機器にせよ、需要以上に供給があるから生産側が期待するほどは売れない。自然に価格競争となる。
もうひとつは個人所得の伸び悩み。というか、下落傾向が続いている。国税庁が毎年発表する「民間給与実態統計調査」の結果を見ると、如実にそれがわかる。多少の部分的な盛り返しはあるが、中長期では下落傾向にある。今後は2015年の労働者派遣法の改悪によって、さらに下落圧力が高まる可能性もある。一方で、各種の労働現場では深刻な人手不足も生じている。その影響もあって最低賃金は上昇傾向。つまり底辺は上がるが中堅層が伸び悩み、全体的には低迷傾向が続くと推測できる。
しかし、この先もずっとデフレが続くとは限らない。日本銀行は13年3月の黒田東彦総裁の就任以降、「インフレ目標」なるものを打ち出した。そしてマネタリーベースを激増させてインフレを導こうとした。経済学の理論上は、お金が増えればその価値が下がるからインフレが起こる、ということになっていたからだ。しかし、日銀は「異次元金融緩和」という名目の壮大な実験で、それが間違いであることを実証して見せた。
トランプの登場
では、この先、日本は供給過剰と個人所得の低迷が続く限り、デフレから脱出できないのか。
そこに大きな不確定要素が現れた。ドナルド・トランプ次期米大統領の登場である。彼の経済政策は基本的にドル安を歓迎する内容だと推測されている。ドル安は、円高につながる。さらに、アメリカ国内の企業と労働者を優遇する政策も予測されている。つまりは減税などである。その財源をどうするのかについては、かなり不透明だ。借金で賄うとすれば、どこかで大きな揺り戻しがあるはずだ。
アメリカの国内経済がどうなるかはさておき、円安は物価高につながる。アベノミクスによる円安は、最盛期に1ドル=120円超まで進んだ。しかし、物価が目立って上がらなかったのは、資源価格の下落が影響したといわれている。特に原油価格の低迷だ。
今また、トランプ政策を睨んだ円安が進んでいる。原油価格も生産調整で底を打った気配が濃厚。あとは中国のバブルが激しく弾けない限り、当面円安傾向が続きそうだ。つまりは物価への上昇圧力がかかる。