そこで政府は、家計の経済的負担を減らそうと動いています。2019年10月に実施が控えているのが、幼児教育の無償化。さらに、2020年4月からは高等教育無償化・負担軽減の導入も予定されています。
幼児教育の無償化では3~5歳の幼稚園、認定こども園、保育所は所得制限なく無償化されます。認可外であった場合の負担の課題は残るものの、一定の補助金が出るため、この間の教育費負担は大きく減りそうです。
0~2歳については、当面住民税非課税世帯を対象として無償化がスタートします。「当面」とあるように、今後の適用拡大に期待が残ります。
高等教育(大学、大学院、短期大学、高等専門学校等。以下、「大学等」)の無償化の対象は限定的なスタートです。住民税非課税世帯などの限られた世帯になります。また、無償化の対象となる大学等も国立は授業料・入学金が全額無償になるものの、私立は国立の授業料相当額を超える分について、私立大学の平均授業料を考慮して一定額が無償化されるようです。無償化ではないものの、低所得世帯の「授業料減免」の導入も予定されています。いずれも詳細はこれから詰めることになっています。さらに同時期から、年収590万円未満の世帯を対象として、私立高等学校の授業料実質無償化も予定されています。
思い起こしてみれば民主党政権時代の2010年度からは、公立高等学校の授業料無償化が開始されました(2014年度以降は所得制限あり)。2017年度からは返還不要な「給付型奨学金」制度がスタート。家庭の経済環境の差によって教育を受ける機会の不平等が起こらないよう、貧困の連鎖を防ぐ意図もあり、低所得世帯から教育費負担軽減の恩恵を受けやすい制度設計が進んでいます。
これらが施行されれば、低所得者ほど教育費負担は相当に減額されます。幼少期から大学卒業まで授業料ゼロでいけてしまいそうです。
未来予想図~教育費編
では、今後はどうでしょうか。
現在までのところ、女性に働いてもらいたい、出生率を上げたいという政府の思惑もあり、家計の教育費負担は低所得世帯から徐々に軽減されている状況です。中間層向けの無償化や減免に関しては、「検討継続」とされており、この流れは今後も続くようです。
賛否両論あるかもしれませんが、個人的には最終的に所得制限なく無償化が進み、すべての子供たちに教育を受ける機会の公平性が実現されるといいなと思っています。
理由はいくつかあります。まず事務面の負担です。こうした条件を設けると、証明するための必要書類を揃える手間がかかり、さらに内容を確認する窓口側の事務作業も増えます。家計は多様化しているので、個別のケースにどう対応したらいいのか、現場で即断できない事態もあるかもしれません。働いている親にとって、こうした手続きは悩ましいものです。
また、税や社会保険の度重なる改正によって、全体的に家計の負担が増え続けている点です。特にここ最近では高所得者層の負担が増えています。ざっくりそれらの例を挙げてみましょう。内容の詳しい説明は省きますが、こんなに改正されているんだなと参考にしてください。
・児童手当の所得制限導入
・公立高等学校授業料無償化の所得制限導入
・給与所得控除が段階的に減額→年収1000万円超で所得税、住民税のアップ
・健康保険料や介護保険料を計算する際の基となる「標準報酬月額」および「標準賞与額」の上限額引き上げ→健康保険料、介護保険料のアップ
・配偶者控除の適用に所得制限導入→所得税、住民税のアップ
これら以外にも、以下のような制度があります。
・年収850万円以上だと、遺族年金はもらえない
・2020年の基礎控除・給与所得控除の改正→年収850万円超で所得税・住民税のアップ
・低金利の「国の教育ローン」の要件には所得制限あり
・奨学金の要件に、高所得層はだいたい外れる
なんとなく「所得制限」はあってしかるべきと思われがちですが、こうした傾向が続くことにも一抹の不安を覚えます。素朴に法人税率を下げずに、儲かった企業から税金を納めていただいたほうがよっぽどいいのでは、なんて思ってしまいます。
ともあれ、教育費の観点でいうと、高所得世帯も負担増のあおりを受けていることから、日本の未来を担う子供たちの教育に関しては、親は大きな心配なしで生み育てられる環境づくりが大事なのではないかと思う次第です。
次回は、もう少し深掘りして、教育費の未来予想図を考えてみます。AI時代の到来でたくさんの仕事が奪われるともいわれるなか、果たしてこれまで通り「就職のため」に高い学費を支払う必要性はあるのか、といったことについて考えたいと思います。
(文=八ツ井慶子/生活マネー相談室代表、家計コンサルタント)
注:「ユースフル労働統計2017-労働統計加工指標集-」(独立行政法人労働政策研究・研修機構)