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東京都、議員の人件費領収書すべて黒塗りで公開…情報公開請求を却下→提訴に都は徹底抗戦

文=三宅勝久/ジャーナリスト
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東京都、議員の人件費領収書すべて黒塗りで公開…情報公開請求を却下→提訴に都は徹底抗戦の画像1都議会議員政務活動費の黒塗りにされた人件費の領収書(尾崎大介議長分)

「都政への信頼回復の一丁目一番地」だとして情報公開の推進を掲げ、2016年の東京都知事選で圧勝した小池百合子都知事だが、その「情報公開推進」の内実はお粗末というほかない。

 東京都議会議員の政務活動費に関する領収書について議長宛に情報公開請求したところ、受理すべきなのに「却下」――つまり門前払いした。そして、裁判になって敗訴しそうになった途端、あわてて訂正するという対応をしたのだ。日本中探してもこのような無様な例はなかなかないだろう。

 小池知事が率いる都民ファーストの会が議席の多数を占める都議会だが、情報公開請求制度の基礎的な理解すら不十分であることが、はからずも露呈したことになる。

 都議会の政務活動費について説明しておきたい。

 都議会では議員一人当たり月50万円(2016年度以前は同60万円)が「政務活動費」という名の経費として支給される。総額で年間約8億円から9億円。その領収書の提出が条例で義務づけられており、都議会事務局の一角で閲覧することができる。1年分で3万から4万枚。5年分でざっと20万枚にのぼる。

 これら大量の領収書は、わざわざ情報公開請求をしなくても見ることができる。一見すると公開に積極的なようにみえるが、じつはそうとばかりはいえない。支出の状況を一覧表にまとめた会計帳簿が議員らの手によってつくられている。ところがそれが公開されていないため、政務活動費の使途を調査するには大量の領収書をめくるしかない。非常な困難を伴う。

 筆者は以前、この会計帳簿を情報公開請求によって得ようと試みたことがある。ところが、議会事務局はこう説明した。

「帳簿は事務局では保有していない。必要なときに各会派から借り受け、不要になったら返還している。開示請求しても結果は不存在になるだけです」

 一年当たり何万枚もの領収書を一枚ずつ調べるだけの労力と時間のある人など、そういるはずがない。公開しているという体裁をとっているだけで、公開していないも同然なのが実態だ。政務活動費の使途を調べてほしくないという議員の本音が透けてみえる。

情報公開請求を却下

 さて、東京都の政務活動費の使途でもっとも目立つのは人件費だ。年間総額の4割、ざっと3億円に上る。そして、議会事務局で領収書を閲覧して驚くのは、金額と宛名がすべて黒塗りにされている点だ。政務活動費の条例に、「都議会情報公開条例の非開示情報がある場合は非開示にできる」という規定がある。その規定を使って塗り潰しがされている。

東京都、議員の人件費領収書すべて黒塗りで公開…情報公開請求を却下→提訴に都は徹底抗戦の画像2情報公開請求を違法に却下した通知(右)と、提訴後に訂正した部分開示通知(左)

 人件費の領収書の金額や宛名を黒塗りにしている理由は「個人情報だから」である。しかし、それでいいのかは疑問だ。いうまでもなく政務活動費は公金である。しかも使途が限定されている。政治的活動や私的な用途には使えない。法律で説明義務が課せられており、説明のために「公開」された領収書である。その金額を消すなど常識ではありえない。都民はとことんバカにされている。

 人件費の領収書の黒塗り部分を公開させるため、17年9月12日、筆者は都議会議長に対して情報公開請求を行った。そうすれば、一部非開示の決定を出してくるだろう。それに対して、不服申し立てや裁判で「非開示は不当だ」と争えばよい。そう考えたのだ。情報公開は異議申し立ての手続きが整備された制度である。

 請求から2週間後の25日付で返事がきた。封を開けて驚いた。「却下」とあった。却下とはいわば門前払いである。これでは「黒塗りは不当だ」と異議の訴えようがない。

 却下理由はこうだ。

<情報公開条例に、ほかの法令で閲覧制度がある文書は請求対象にしないとある。政務活動費の領収書は政務活動費条例で閲覧制度が設けられている。よって開示請求の対象ではない>(趣旨)

 たしかに、先に触れたとおり、情報公開請求をしなくても議会事務局に行けばすぐに領収書を見ることはできる。しかし、そこにある領収書は黒塗りがされたものだ。その黒塗りに異議を申し立てる手段は情報公開請求しかないが、まるで文句を言うなと言わんばかりに都議会議長は却下した。

 そこで筆者は、ほかの道府県に同様の情報公開請求をしてみた。結果、すべて請求は受理された。東京都のように人件費の金額や宛名を黒塗りした例がいくつもあったが、不服審査や裁判でその不当性を訴えることが可能であることが確認できた。つまり政務活動費の領収書の情報公開請求を却下したのは日本中で東京都だけだった。東京都というのは、じつは情報公開制度の基本中の基本を理解していないのではないか。そんな疑いが出てきた。

東京都、却下は正しいとして徹底抗戦

 見過ごせない問題だと考えた筆者は、今年1月、「却下は違法である」と裁判を東京地裁に起こした。すぐに「却下」の間違いに気づいて訂正するかと思った。ところが、被告の都は代理人弁護士を頼んで徹底抗戦してきた。却下は正しいというのだ。

東京都、議員の人件費領収書すべて黒塗りで公開…情報公開請求を却下→提訴に都は徹底抗戦の画像3情報公開請求の却下処分に違法性はないと主張した都の答弁書

<不服審査の申し立てや訴訟で争うことができるか否かは条例で定められるものではなく、行政不服審査法や行政事件訴訟法に基づいて決せられるべきものであるから、「不服審査の申し立てや訴訟もできない」というのは、原告の誤解である>(都の答弁書より) 

 わけがわからない主張だった。情報公開の黒塗りに不服を申し立てたり、訴訟をする手続きは、たしかに行政不服審査法や行政事件訴訟法に根拠がある。だからこそ筆者は情報公開請求の手続きをしたつもりだった。しかし都によれば、まるで情報公開請求以外に方法があるかのようなのだ。

 いったいどんなやり方なのか、法廷で筆者は都代理人の橋本勇弁護士に尋ねた。

三宅「領収書の黒塗りに対する不服申し立てや裁判は、情報公開請求制度を使う以外にどうやればいいんでしょうか」

橋本弁護士「それは自分で考えてください」

三宅「私は考えた結果、この情報公開請求をしたんですが……」

 裁判官も苦笑ぎみに「もう少し明確に主張してください」と都代理人に言った。

 はたしてどんな主張をしてくるのかと期待していたところ、今年4月、第2回目の口頭弁論を目前にして都はあっさりと白旗をあげた。却下処分を取り消したのだ。情報公開請求に対して却下したのが昨年9月25日、訂正するのにじつに7カ月を費やした計算だ。

 これだけの時間と労力を経て、ようやくほかの自治体並みに「領収書の黒塗りの不当性・違法性」をめぐる不服申し立てや裁判が、情報公開の手続きにのっとってできるようになったわけだ。何が情報公開の推進か、ため息がでる。

すでに黒塗りしたものを、もう一度「点検」

 ところで、この情報公開請求に対する「却下」の誤りを都が認めたことで政務活動費の調査に進展があった。大量にある政務活動費の領収書を、これまでは1枚10円でコピーしていた。今後は情報公開請求の手続きを使うことによって、枚数にかかわらずDVD1枚100円で入手可能になったのだ。

 今年夏から公開される分(17年度分)はインターネットで公開されることになったが、過去のもの(12-16年度分。ただし12年度分は今年4月末で公開を終了)は紙でしか見ることができない。それを金をかけずにデータで手に入れて、じっくり調査することができる。

 筆者はさっそく、近々廃棄が予定されている12年度分の領収書約3万枚を情報公開請求した。すでに黒塗りの状態で棚に並べてあったものだから、機械的にデータ化するだけである。さほど手間はかからないだろうと思っていたら、先日都議会事務局からこんな連絡があった。

「一枚一枚非開示部分について精査する必要があるので、相当な時間がかかる。見通しはたたないが数カ月は確実にかかる」

 すでに黒塗りしたものを、もう一度点検するという。いったい何度黒塗りすれば気が済むのか。あきれるばかりである。

 東京都の情報公開は「推進」どころか、まずは日本の平均値に到達することが課題であることがはっきりした。もっとも、情報公開や公文書管理に関して日本は国際的に著しく遅れているとの指摘がある。全国平均に近づいたからといっても自慢できる話ではない。

 なお、情報公開・公文書管理分野における日本の後進性については、『国家と秘密 隠される公文書』(久保享・瀬畑源著、集英社新書)、『公文書問題 日本の「闇」の核心』(瀬畑源著、同)に詳しい。 
(文=三宅勝久/ジャーナリスト)

東京都、議員の人件費領収書すべて黒塗りで公開…情報公開請求を却下→提訴に都は徹底抗戦の画像4情報公開推進を掲げて当選した小池百合子東京都知事

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