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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

ナチスドイツと太平洋戦争下の日本政府、「音楽」を国民の扇動に利用

文=篠崎靖男/指揮者
ナチスドイツと太平洋戦争下の日本政府、「音楽」を国民の扇動に利用の画像1「Getty Images」より

 もうすぐ終戦記念日です。同じ過ちを繰り返さないよう、そして世界の平和を祈りながら、当日を迎えようと思います。

 第二次世界大戦は太平洋戦争ともいわれますが、これはもちろん日本とアメリカ間の戦争に対する呼称。ヨーロッパでは、大陸を二分した戦いが繰り広げられていました。

 ドイツも敗戦国となりましたが、戦時のドイツの特異性は、ユダヤ人の大量虐殺を行ったことでした。ドイツ国民でありながら、ユダヤ系であるというだけで地位や財産を奪われ、さらに家族も引き離されて強制収容所に送られました。そして、ナチスは征服した国々のユダヤ人も片っ端から捕まえていきました。ヒトラーというひとりの人間の存在が引き起こしたのは確かですが、それを支持したのは興奮の中、自分たちを見失ったドイツ国民でした。

 それはヒトラーの演説場所だけでなく、ドイツ・キリスト教会内でも焚きつけられました。人が集まる教会内で、神の愛を語る代わりにユダヤ人排斥が叫ばれていました。戦争は集団を狂わせてしまうのです。

 ひとつ、ユダヤ人のつくった小話があります。

「第二次世界大戦中、あるユダヤ人がドイツ教会の礼拝に来ていました。彼はユダヤ人でありながら、キリスト教信者だったのです。牧師は、いつも通りユダヤ人批判を始めていたのですが、ユダヤ人が1人紛れ込んでいるのを見つけると、批判の言葉は彼個人に向いてきました。いたたまれなくなった彼が教会から出ようとしたら、肩を叩く人がいました。『僕も教会から出なくてはならないね』と言いながら。振り返ってみたら、それはイエス・キリストでした」

 ご存じの通り、キリストはユダヤ人です。これは典型的なユダヤ人ジョークですが、彼らのジョークには皮肉が含まれています。そうやって長い間、自分たちの国を持たない民族は生き抜いてきたわけです。

 さて、ユダヤ人排斥は音楽の世界にも大きな影響がありました。ユダヤ人は、特に弦楽器の演奏の才能が豊かだといわれています。今でも、世界的なヴァイオリニストや著名オーケストラのコンサートマスター、首席弦楽器奏者にはユダヤ系が多いことは確かです。そんなユダヤ人の音楽家も戦時中、運が良い一部の人は海外逃亡できましたが、ほとんどは強制収容所送りとなりました。優秀なユダヤ系奏者を失ったドイツのオーケストラが、戦前のような高い水準に戻るまでには、数十年もかかったといわれています。半面、アメリカに渡ったユダヤ人系音楽家によって、アメリカの音楽水準が飛躍的に上がったのは皮肉な話です。

 終戦後、熱狂から覚めたドイツ人は、国民全体の自責の念と後悔に包まれて、今もなお大きな重荷を背負い続けているかのようです。そんなことが底流にあり、最近では物議を醸しながらも、シリア難民を大量に受け入れたのかもしれません。

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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