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『シン・エヴァ』庵野秀明ら制作陣への読むに堪えない脅迫を、業界関係者はこう考える

文=編集部
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エヴァンゲリオン公式サイトより

 3月8日に公開され興行収入80億円を記録したアニメ映画『シン・エヴァンゲリオン劇場版』(スタジオカラー)の制作関係者への誹謗中傷・脅迫行為があったとして、エヴァンゲリオン公式サイトは13日、「『シン・エヴァンゲリオン劇場版』制作関係者に対する誹謗中傷・脅迫行為に関して」と題したリリースを公開した。いったいなにがあったのか。

 公開されたリリースは以下の通りだ。

「公開中の『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を応援いただきありがとうございます。

 現在、本作の内容や関連取材記事等を曲解し、作品関係者個人への誹謗中傷や脅迫、犯罪を示唆する行為を確認しています。

 本作は株式会社カラー(スタジオカラー)を主体とし、数多くのスタッフが関わる共同作業によって制作されています。弊社では、創作されたフィクションに於いてその見方、受け取り方は、皆様のご感想やご意見として真摯に受け止めています。

 しかしながら、個人的な内容の解釈や推論、個人の希望に沿わない内容に対する不満等により、作品関係者個人への尊厳を損なう行為、誹謗中傷、脅迫行為、犯罪を示唆する発言に対しては、どのような場合に於いても強く抗議します。

 また、明確な名誉棄損、脅迫、殺害予告等犯罪に相当する発言に関しては、国内であれば警察、海外の事案でも各国捜査機関への通報及び、損害賠償を含めた法的措置を持って対処する所存です」

総監督の庵野秀明氏はかつて誹謗中傷で命を絶つことも考えた

 総監督の庵野秀明氏は3月22日に放送されたNHKのドキュメンタリー番組『プロフェッショナル 仕事の流儀 庵野秀明スペシャル』で、エヴァに対する誹謗中傷に触れていた。テレビアニメ版(いわゆる『旧作』)の最終回に関するネット上の批判的な書き込みを見た当時のことを、庵野氏は次のように振り返える。

「自分としては世の中とかアニメを好きな人のために頑張ってたつもりなんですけど、庵野秀明をどうやって殺すかを話し合うようなスレッドがあって。どうやったら一番うまく僕を殺せるかっていうのがずっと書いてある。こうやって殺したらいい、こうやって殺したらいいって。それを見た時にもうどうでもよくなって。アニメを作るとか、そういうのはもういいやって」

 その後「電車に飛びこもうとした」「会社の屋上から飛び降りようとした」などと、当時の精神状態を明かした。

庵野・安野夫妻に子どもがいないことを揶揄

 では今作に関してはどうなのか。ネット上のブログやTwitterの投稿を調べたところ好評価が大半だったが、やはり一部に辛辣な批判も散見された。『プロフェッショナル』で庵野氏と妻のマンガ家、安野モヨコ氏のほほえましい二人三脚の関係性が伝えられたこともあってか、「作品に安野氏との結婚の影響がみられる」「子どももいないくせに(作品世界で)未婚者にマウントを取るな」などという個人攻撃のような主張も見られた。

 26年間エヴァシリーズを視聴してきたKADOKAWAの編集者は「直接カラーさんにメールや電話などでどのような主張や感想が寄せられているかはわかりませんが」とした上で、次のように分析する。

「『これだけオタクを増産しておいて、これで終わりだから、もう大人になれとはどういうことだ』『自分だけリア充になりやがって』という批判、『登場キャラクターのカップリング』に納得がいかないファン、あれほどの一大コンテンツを作りながらもあっさりと手放してしまうことに対する『優秀なクリエイターへの妬み』などがあるように見えます」

シン・エヴァンゲリオン劇場版』のテーマは「さらば、すべてのエヴァンゲリオン。」だ。前出の『プロフェッショナル』でも、「足掛け26年間にわたって続編が作られ続けた『エヴァンゲリオン』からファン、制作関係者を解放する」という制作側の思いが語られていた。

 以下ネタバレを含むが、作中では、ある理由で14年間眠っていた主人公の碇シンジ(作中設定で中学2年生の段階で成長が止まっている)は、かつての同級生たちが大人になって子ども作っていたり、家庭を持ったりして穏やかに生活する光景に直面する。旧作でヒロイン的な立ち位置にあった人気キャラクターが、別の男性キャラクターと付き合っているかのような描写がある。

 一連の作品で象徴的に差し込まれてきた「電車に乗り続けるシンジ」のシーンも、今作では「駅に降り立つ」シーンに変わった。そしてラストシーンでは「少年から男性になったシンジ」は、「少女から女性になったあるヒロイン」と手をつなぎ、駅から駆け出していく。

「ずっと体育座りをして泣いていた少年のシンジに、自分を投影していたファンにしてみれば、『自分だけ置いて行かれた』と感じてしまうのかもしれません。多くの批評家が指摘している通り、エヴァは庵野監督の私小説的要素が強く、そこがこの作品の魅力とも言えます。作品を最も愛し、苦しんでいたのは庵野監督やモヨコさん、その周囲の製作陣なのは間違いありません。

 今回の作品も、そんな制作者の苦しさや愛着が透けて見え、『本当にお疲れ様でした。美しく終わらせてくれてありがとう』と言いたくなる仕上がりになっていたと思います。

 カップリングに関しては、エヴァに限らず、ほかのアニメ、漫画でもよくあることです。主人公でくっつきそうだったヒロインが、ストーリーの推移で他の男性キャラクターと付き合うようなことになると『騙された』という苦情の電話が編集部に殺到しますよ。

 ただ今回の件は微妙です。私もシン・エヴァで物議を醸しているヒロインを26年間“推し”続けてきましたが、嫌悪感は一切抱きませんでした。そういう反発があることも踏まえて、すべてのキャラが良く描かれていたように感じます」(前出の編集者)

究極的に創作物は「作者の物」

 創作への自由な批評と誹謗中傷をどのように分けて考えるべきなのか。講談社の元漫画編集者は次のように話す。

「かつて、手塚治虫先生が『ジャングル大帝』(学童社)で『主要登場キャラクターの死』を描き、日本にストーリー漫画というジャンルを切り拓きました。それまで日本の漫画世界の主要キャラクターはおおむね成長することも、死ぬこともありませんでした。成長するキャラクターを描くということは、作者も同じく歳をとり成長していることの裏返しでもあります。時間軸のない日常を描き続ける作品ですら、作者の成長や変化とは無縁ではありません。

 作品の批評と誹謗中傷の線引きは難しいですが、突き詰めれば漫画もアニメも『作者の物』です。編集者や版元はもちろん、読者や視聴者の物ではないのです。『面白いか、面白くないか』『好きか、嫌いか』『買うか、買わないか』を自由に述べることはできても、作品そのものを『自分の思った通りにする』ことは誰にもできません。それは作者個人の私生活や人生の変化に対しても同様なのではないでしょうか」

(文=編集部)

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