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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

日本人ばかりの場所で英語&カタカナ表記が氾濫している理由

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

 さらには、英語そのものの表記も氾濫しつつある。
 
 あるとき、ホテルのロビーにあるお手洗いの前で、中年の女性から「すみませんが、お手洗いはどこでしょうか?」と尋ねられた。そこで、すぐ前の扉を指差して教えてあげたのだが、そこには「REST ROOM」と記されていた。英語表記に慣れていないと、扉を開けていいものかどうか戸惑ってしまうわけだが、客のほとんどが日本人なのに、いくら外国人客も想定しているとはいえ、なぜ日本語が併記されていないのだろうかと不思議に思った。

 親を温泉に連れて行ったときも、洗い場にある入れ物の表記がわからず、どれが洗髪用シャンプーで、どれが身体を洗う石鹸かわからなくて、隣の人に教えてもらったと母親が言うので、自分が入ったときに確かめてみたら、「Shampoo」「Body Soap」といった英語表記しかなかった。海外の客に向けて英語で併記するのはよいが、国内で使用されることが多い商品になぜ日本語が表記されていないのだろうか。

 近所の喫茶店でも、「staff only」という表記を見て、客はいつも日本人ばかりなのに、「関係者以外立ち入り禁止」「関係者以外はご遠慮ください」でなく、なぜ「staff only」なのか。そして、定休日には「Sorry, we are closed」と記した札が入り口の扉にぶら下がっている。

「ストロベリー」は「苺」と違うのか? 「ライス」は「ご飯」とは別物か?

 アメリカ人の社会人類学者パッシンは、戦後の日本でのGHQの任務を解かれた後も、しばしば来日しており、日本に関するさまざまな興味深い考察をしているが、日本人が外来語を不必要に使うことへの違和感について述べている。

 パッシンは、日本には苺という完全無欠な日本語があるのに、レストランの給仕が苺のことを「ストロベリー」と言う意味がわからないという。自分が外国人だからでなく、日本人の客にも「ストロベリー」と言っている。「私には、さっぱり理解できない現象である」(パッシン『英語化する日本社会』サイマル出版会、以下同書)。

 ショッピングセンターに行っても、「なかに『フード フロア』という札がぶら下がっている。『食料品』というりっぱな日本語は、どうなったのだろう」。

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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