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さらには、英語そのものの表記も氾濫しつつある。
あるとき、ホテルのロビーにあるお手洗いの前で、中年の女性から「すみませんが、お手洗いはどこでしょうか?」と尋ねられた。そこで、すぐ前の扉を指差して教えてあげたのだが、そこには「REST ROOM」と記されていた。英語表記に慣れていないと、扉を開けていいものかどうか戸惑ってしまうわけだが、客のほとんどが日本人なのに、いくら外国人客も想定しているとはいえ、なぜ日本語が併記されていないのだろうかと不思議に思った。
親を温泉に連れて行ったときも、洗い場にある入れ物の表記がわからず、どれが洗髪用シャンプーで、どれが身体を洗う石鹸かわからなくて、隣の人に教えてもらったと母親が言うので、自分が入ったときに確かめてみたら、「Shampoo」「Body Soap」といった英語表記しかなかった。海外の客に向けて英語で併記するのはよいが、国内で使用されることが多い商品になぜ日本語が表記されていないのだろうか。
近所の喫茶店でも、「staff only」という表記を見て、客はいつも日本人ばかりなのに、「関係者以外立ち入り禁止」「関係者以外はご遠慮ください」でなく、なぜ「staff only」なのか。そして、定休日には「Sorry, we are closed」と記した札が入り口の扉にぶら下がっている。
「ストロベリー」は「苺」と違うのか? 「ライス」は「ご飯」とは別物か?
アメリカ人の社会人類学者パッシンは、戦後の日本でのGHQの任務を解かれた後も、しばしば来日しており、日本に関するさまざまな興味深い考察をしているが、日本人が外来語を不必要に使うことへの違和感について述べている。
パッシンは、日本には苺という完全無欠な日本語があるのに、レストランの給仕が苺のことを「ストロベリー」と言う意味がわからないという。自分が外国人だからでなく、日本人の客にも「ストロベリー」と言っている。「私には、さっぱり理解できない現象である」(パッシン『英語化する日本社会』サイマル出版会、以下同書)。
ショッピングセンターに行っても、「なかに『フード フロア』という札がぶら下がっている。『食料品』というりっぱな日本語は、どうなったのだろう」。
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