経費で落とすために参加人数を“改ざん”
ある大きな会社に税務調査が入りました。その調査には、国税局のエリート集団である“調査部”が当たりました。調査部が調査をするような規模の大きい会社の場合、偽装・隠蔽といった不正はほとんど行われません。帳簿調査を進めていくと、売上除外や架空経費はありませんでしたが、会議費名目の飲食がたくさんありました。4万円とか10万円とか30万円といった高額な金額も散見されます。
「会議でこんなに金を使うだろうか」と、調査官は疑問に思ったそうです。領収書を確認すると、高級レストランやクラブの支払いがあり、裏には参加者の人数、名前、会社名の記載があり、支払い金額を参加人数で割った一人当たりの飲食代は5000円以下のようでした。
しかし、どうでしょう。読者の皆さんから見ても「怪しいな」と思いませんか。参加人数を増やすだけで簡単に会議費にできるのなら、改ざんするインセンティブが働きそうじゃありませんか。
会社の損金になるかならないかは、従業員にはあまり関係がありません。しかし、会社側が、そもそも「一人当たり5000円を超える飲食代は経費として認めない」とルールを設けていたらどうでしょう。接待では一人5000円なんて、簡単に超えてしまいます。そこで経費で落とすために、従業員は人数を改ざんして会議費にしていたのです。
会社が納税を圧縮するために行った不正でなくとも、従業員が行えば会社の不正として重加算税の対象となります。この調査によって、損金で落としていた会議費は交際費と認定され、重いペナルティを科されました。
会社側は、「接待は一人5000円以下にせよ」というルールを強制するだけでなく、その理由と破った場合のリスクを説明し、従業員に非があれば責任を取らせる旨を事前に通知することが防御策になると思います。
(文=さんきゅう倉田/元国税局職員、お笑い芸人)