オマケにすぎなかったペイパルの決済サービス
たとえば、ペイパルの例を見てみましょう。ペイパルは世界最大のインターネット上での決済サービスを提供するアメリカの会社です。創業は1998年12月と、今から20年ほど前のことです。世界最大規模のオークションサイトの膨大な取引を支える決済サービスとして始まり、今では多くのインターネットショッピングの決済システムとして利用されるようになり、ほぼ世界中の国と地域で2億2000万のアカウントが開設されています。
日本でも07年3月からサイト全体の日本語表示が開始され、日本国内のカスタマーサポートが提供されてからは、利用者数は増加し続けています。これほどの成功を収めている会社ですが、実はこの会社はオンラインの決済サービスの提供を目的につくられたものではありませんでした。
ウクライナに生まれてアメリカで育った、当時23歳だったマックス・レブチンは、友人と2人で、当時流行していたPDAという携帯情報端末向けのセキュリティソフトの開発をしていました。PDAは多くの企業の管理職に使われていて、そこには電子メールをはじめとして多くの機密情報がやり取りされていました。しかし、PDAのセキリュティ技術は、機密情報を扱えるレベルに達しているとは言い難いものでした。レブチンは、自分が持っている高度な暗号化技術を、PDA向けにパッケージ化すれば、多くの需要が見込めると考えていました。
しかし、その計画は失敗でした。レブチンが想像していたほど需要がなかったのです。その後もレブチンは暗号化技術を中心に、携帯端末向けのいろいろソフトウェアを開発しましたが、一向にブレイクしませんでした。
そのなかの一つに、PDA端末同士でセキュリティの高い送金を行うことができるソフトウェアがありました。当時のPDAは現在のスマートフォンほど高機能ではなかったため、PDA本体とは別にPC用のウェブサイトを用意する必要がありました。レブチンにとってはPDAのソフトがメインで、ウェブサイトはおまけだったのですが、多くの人がウェブサイト版を使うようになりました。これはまったくの想定外でしたが、問い合わせを頻繁に受けるようになって、ふと「みんなが求めているのはこれかもしれない」とレブチンは気づきました。
これがペイパルの始まりです。