それからはウェブサイト版の開発と営業活動に集中し、当時急成長していたインターネットオークションサイト・イーベイで取引する人たちの間でスタンダードな送金ツールとなりました。加えて、イーベイが自社で開発していた送金システムが不完全だったこともあり、一時はイーベイのビジネスの一端を担っていたにすぎない会社が、イーベイそのものを買収し、子会社とするまでに成長したのです。
このように、レブチンの当初の計画―――これをプランAと呼びましょう。プランAは目論見から外れたものの、そこから派生したサービスに需要があることに気づいた、つまりプランBにシフトしたことで、巨大なビジネスに成長しました。ちなみに、当初対象にしていたPDAは、今となっては影も形もありませんから、そこに執着し続けていたら、レブチンがビジネスで成功することはなかったでしょう。
広告ビジネスに否定的だったグーグル
世界最大のオンライン検索サービス会社、グーグルも最初から現在のビジネスモデルを描いていたわけではありませんでした。むしろ、広告によって収益を得ることを否定していたほどでした。
スタンフォード大学の博士課程にいたセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジは、1997年当時に主流だった検索エンジンに満足していませんでした。彼らは数人の仲間と、本当に役に立つ検索エンジンを開発するために研究を始めました。ラリー・ペイジの名字をもじって、「ページランク」と名付けられたアルゴリズムを用いた彼らの検索エンジンは、既存の検索サービスよりも格段に性能の高いものになりました。
口コミでどんどん広がり、リリース後1年も経つと1日に10万件以上の検索が行われるようになりました。こうなってくると、ネットワークやサーバの増強が必要になってきますが、彼らにはお金がありませんでした。そして、何より、売上がまったくありませんでした。大量のユーザはいたものの、すべて無料のサービスだったからです。
もともとは、あくまで学術的研究の成果であった彼らの検索サービスに目を付けたベンチャーキャピタルが2,500万ドル、日本円にしておよそ30億円を投資しました。ちなみに、ベンチャーキャピタルとは有望なベンチャービジネスに投資を行う企業のことです。
この投資のおかげで一定の期間は存続できるめどは立ちましたが、どれだけ大量の資金があっても、売上ゼロのままではいつかはお金が無くなってしまいます。どんなサービスも、定期的に収入が得られるモデルを持っていなければ、存続することはできません。ここでやっと、売上を上げる仕組みを構築することが必要になったわけです。
最初に彼らが考えたことは、ライセンス料をもらって検索エンジンをほかの会社に使ってもらうというビジネスモデルでした。しかし、ライセンス料だけでは、増加するコストにとても追いつきません。
次に考えたビジネスモデルは、ターゲット広告でした。ターゲット広告とは、広告の対象となるユーザのクリック履歴に基づいて、ユーザの興味や関心を推測し、ターゲットを絞って広告配信を行う方法です。例えば、旅行関連のページや航空会社の広告をクリックしたことがあるユーザは、旅行というジャンルに興味関心があると判定し、旅行関連の広告を配信するというものです。
しかし、ターゲット広告ビジネスをやることは、この検索エンジン開発時の理念であった「本当に必要なものを提供する」という点に反するということで、社内で大きな議論になりました。
そこで、広告の意図をまったく含まない検索結果と、スポンサーによる広告を画面上で明確に分けて表示する方法を考え出しました。現在この表示方法に馴れている私たちにとっては、すでに普通のことになっていますが、当時としては画期的な発明だったのです。
併せて、スポンサーが広告を出す仕組みを自動化することで、運営の低コスト化を実現しました。その結果、中小零細企業であっても利用可能な広告料金になり、広告主の数は爆発的に増加したというわけです。
計画がとん挫したところが始まりと考えよ
この会社は精度の高い検索エンジンを開発するというプランAから始まり、広告モデルというプランBを生み出したところから、高収益企業への道のりをスタートした、と言うわけです。
最初に考えた計画、プランAは、ほとんどの場合その通りには行きません。世界規模の企業であってさえそうなのです。実際にあなたがよく知っているような企業の多くが、プランB、プランC、場合によってはプランHによって、世の中に知られるようになったのです。
プランAもちろん重要ですが、あくまでそれは入り口にすぎません。それ以上に市場の声を聞きながら、常に本当に世の中が求めているものを探し続ける事業家の存在が重要だということです。
仕事のなかでも、特に新しいものをつくり上げるようなプロジェクトは、計画通りに行かないことがほとんどです。「最初の計画がとん挫したところが始まりだ」くらいの気持ちで仕事に取り組んだほうが、長い目で見たときに上手くいくはずです。
(文=山崎将志/ビジネスコンサルタント)