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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

忖度は社会の潤滑油、できるに越したことはない…忖度すらできない人は周囲の迷惑

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士

そもそも「忖度」とは何なのか?

「忖度」は17年になって政治家絡みの問題で急速に世間に広まった言葉であるため、何か悪いことであるかのような印象を持たれがちだ。ニュースや雑誌記事をみても、悪い意味での「忖度」についてのコメントばかりが目立つ。

 だが、このように辞書的な意味を確認すると、「忖度」そのものは、けっして悪いことではないことがわかる。「忖度」というのは相手の気持ちや立場に想像力を働かすことを意味する。相手の気持ちや立場を配慮することは、別に悪いこととはいえない。むしろ、相手の気持ちや立場を配慮せず、自分の気持ちや立場のみを基準にして行動するとしたら、それは非常に自分勝手なことになるだろう。

 欧米社会で争いごとが多く、やたら訴訟問題になったりするのも、「忖度」というものが機能せず、誰もが自分を基準に行動し、自分勝手な自己主張をするからにほかならない。その意味では、「忖度」を大事にする日本的コミュニケーションこそが、争いごとが少なく、平和で治安の良い社会をもたらしているといってもよいだろう。

 自分勝手な主張は見苦しいということで相手が遠慮してあえて要求しないことを「忖度」し、その要求に極力応えようとする。こっちに負担をかけては申し訳ないという思いから相手が口にしない思いを「忖度」し、その思いを汲み取り、相手のことを配慮した行動を心がける。それは、温かい心の交流にとって大切なことである。

 問題なのは、ニュースで流される不正疑惑のように、「忖度」により判断が歪み、不適切な行動が取られることだ。「忖度」の結果が不適切な行動につながるのでなければ、「忖度」という心理メカニズムが働くことに対して、別に目くじらを立てることはない。もっと「忖度」すべしと奨励してもよいくらいだ。

 どうも、そのあたりの混乱がみられるようだ。

「忖度」の良し悪しは、動機しだい

 
 相手の気持ちや立場を思いやり、相手の身になって考えるのが「忖度」だということなら、それはけっして悪いことではない。むしろ心地よい雰囲気の醸成のために重要な役割を担っているといってよいだろう。

「忖度」するには、相手の視点に立ったときに物事がどのように見えるかを想像する姿勢が必要である。自分の視点からしか物事を見ることができないのでは「忖度」は成り立たない。ゆえに、「忖度」ができるということは、自己中心的な視点に凝り固まらずに、相手の視点に想像力を働かせることができるということで、それ自体はけっして悪いことではない。

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

榎本博明/心理学博士、MP人間科学研究所代表

心理学博士。1955年東京生まれ。東京大学教育心理学科卒。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。川村短期大学講師、カリフォルニア大学客員教授、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。心理学をベースにした執筆、企業研修・教育講演等を行う。著書に『「やりたい仕事」病』『薄っぺらいのに自信満々な人』『かかわると面倒くさい人』『伸びる子どもは○○がすごい』『読書をする子は○○がすごい』『勉強できる子は○○がすごい』(以上、日経プレミアシリーズ)、『モチベーションの新法則』『仕事で使える心理学』『心を強くするストレスマネジメント』(以上、日経文庫)、『他人を引きずりおろすのに必死な人』(SB新書)、『「上から目線」の構造<完全版>』(日経ビジネス人文庫)、『「おもてなし」という残酷社会』『思考停止という病理』(平凡社新書)など多数。
MP人間科学研究所 E-mail:mphuman@ae.auone-net.jp

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