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子どもが発する危険なサインとは?中流・富裕家庭で起きている親子の問題

文=真島加代/清談社
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「gettyimages」より

 子どもの貧困はたびたびメディアで取り上げられ、解決すべき社会問題のひとつとなっている。ただ、お金さえあれば子どもたちが健やかに成長できるかといえば、そういうわけではない。

 有名予備校で現代文・小論文の講師を務めていた河本敏浩氏が上梓した『我が子の気持ちがわからない』(鉄人社)には、中流・富裕家庭で起きている親子間の問題が17の実例とともに紹介されている。著者の河本氏に、現代の家庭が抱える悩みや、親が気づくべき子どものサインについて聞いた。

コロナ禍で不登校が急増、過去最多に

 文部科学省が行った調査によると、2021年度の小中学校の不登校児童の人数は24万4940人に達したという。不登校児童数は9年連続で増え続けており、2020年度からの1年間の増加率は過去最大を記録したという。

 「今回の調査で小中校生の不登校児童が増えた背景には、コロナ禍が関係しているといわれています。生活リズムの乱れや学校を休むことへの抵抗感が薄れたなどの理由がありますが、“友だち”との関係が希薄になってしまった影響が不登校という形で表れていると考えられます」(河本氏)

 学校の友人関係は、家族とは異なるもうひとつのコミュニティ。コロナ禍によって学校内のコミュニティ作りが難しくなり、家にも居場所がない子どもは自室に引きこもってしまうという、負のスパイラルに陥ることもあるという。

 「現代の家庭の問題は不登校だけでなく、子どもの暴力や、突然『声優になりたい』と言いだすなど、早計な進路変更などの形で表れます。一方の親たちは、我が子が問題行動を起こす理由がわからず、プライドもあるので誰にも相談できないまま時間だけが過ぎていく。こうした状況から、中流・富裕家庭の親子問題は表面化しにくいのが実情です」(同)

 河本氏は、これまで予備校講師として経済的に豊かな家庭で生じる親子の“歪み”を多く見てきた。

 その著書には、受験対策のために生徒の家を尋ねたら、その兄が長年引きこもっている事実が発覚するケースや、優秀な姉と比較され、そのコンプレックスを解消するために合格の可能性が薄い医学部を志望し続ける浪人生など、さまざまな悩みを持つ子どもたちが登場する。そして、どの問題も“勉強”や“進路”が起点になっているのが特徴だ。

 「私は教育心理学の専門家ではありません。家庭の問題解決でお金をもらっているわけではなく、小論文の添削・指導を依頼されているだけです。でも、その流れで親子関係が修復できることがあるんです。私が家庭の問題に触れるきっかけは、すべて『勉強』。私の講演に来てくれた親御さんが『うちの子の成績が伸びない』と相談に訪れ、実際にお子さんに会うと、親子の問題が成績に影響しているケースも珍しくないのです」(同)

 勉強や学力の視点で子どもと向き合うと、本人の気質や親子関係、家庭環境が見えてくる、と河本氏。専門家とは異なるアプローチにより、問題の本質が浮かび上がってくるのだ。

子どもの自己肯定感を下げる親の無自覚さ

 多くの家庭に接してきた河本氏は、子どもが家庭内で問題を起こす原因は「親」の可能性が高い、と指摘する。

 「いじめなど学校内のトラブルは、学校や環境に問題があります。しかし、自室に引きこもって家族との接触を断ったり、家庭内でだけ暴力を振るうなどの行動が表れたら、その原因は家族にあります。親が彼らの自己肯定感を下げるような言葉を日常的にかけているなら、それがストレスとなって問題行動として表れるのです」(同)

 幼少期から現在までに親から受けた傷は、大人の自覚が芽生える中学時代にさまざまな形で表出するという。しかし、一方の親は「自分が子どもを傷つけている自覚がほとんどない」と河本氏。

 「たとえば、幼い頃から習い事をたくさん習わせて、うまくいかないと『何をやらせてもダメ』とか、『あなたはブスだから勉強しないと幸せになれない』など容姿を貶めるなど、我が子の自己肯定感を下げている親御さんを多く目にしてきました。なので、問題行動の原因が親子関係だとわかったときは、親がお子さんに対して謝るように伝えるんです。すると、『謝らなければならないようなことをしたかな?』とみなさん首をかしげます。親と子では、それほど認識に大きなズレがあるんです」(同)

 河本氏が親に謝るように促すと、子どもたちはじっと親を見つめ、謝罪の言葉を待つという。こうした謝罪のタイミングは早いほど良い。放置してしまうと、年月とともに親子のズレは大きな溝となっていく。

 「私のところに来る生徒は高校生や浪人生なので、すでに問題がこじれにこじれているケースが多いですね。もちろん、世の中の大半の子どもはすくすくと成長しているので、本書で挙げたのはごく一部の家庭で起きている問題。ただ、少数派なために放置されがちで、深刻化する傾向があります。親子間だけで問題を解決するのは困難なので、お子さんが安心できる親戚(祖父母・年上のいとこ)などの第三者にコミュニケーションを委ねると、状況が改善する可能性があります」(同)

 程よく距離が保てる第三者には、子どもも本音を口にしやすいという。家庭という閉じた世界に新しい風を吹き込んでくれるのだ。

「ラノベやアニメに夢中」「スマホを手放さない」子どもが送るサインとは

 当然だが、親子関係がこじれる前に自分たちで解決してほしい、と河本氏は願っている。早期解決のカギは、子どもが送っているサインに気づくことにあるという。

 「多いのは、ラノベやアニメ漬けになっていること。さまざまなジャンルのアニメを見ているなら、それほど深刻ではありませんが、お子さんが“転生モノ”などのジャンルだけに夢中になっているなら注意してください。今とは違う自分になりたい、別世界に浸りたいという願望が強く、家庭や学校で何らかの問題を抱えているサインかもしれません。その場合は、お子さんと一緒に自分が好きな昔の映画や漫画を楽しむなど、問題に直面して狭くなった視野を広げる手伝いをしてあげてください」(同)

 多様な創作物に触れさせて子どもの価値観を広げる。すると、彼らは自ら問題を解決するヒントを作品の中から得るという。子どもの悩みに踏み込みすぎず、自立を促すのがコツだ。

 「ふたつめは、常にSNSに反応しているケース。家の中でスマホを手放さず、メッセージのやりとりをしている子は、家庭に居場所がないと感じている可能性があります。家で安らげないため、SNSに所在を求めている。親御さんが自己肯定感を下げるような接し方をしているため、家で自分を保てなくなっているのかもしれません。そのため、唯一の居場所であるSNSから追い出されたり、友人との関係が壊れることに強い恐怖心を抱いているんです」(同)

 河本氏によると「自分は興味がないのに友だちに合わせてアニメショップに行っている」「周囲に合わせて制服を着崩している」など、“己”を消して友人とつながっている子どもは危険度が高いという。

 「我が子がSNSに囚われているなら、親は自身の接し方を省みる必要があります。そして、子どもの目を見て“いいところ”を言葉にする。我が子の長所を具体的に10個ほど挙げ『あなたにはたくさんいいところがあるのに、このままでは自分を失ってしまう』と伝えてください」(同)

 また、意外にも“マッサージ”を通して親子で交流を持つのも、関係修復に役立つという。

 「人は精神的なストレスで体がこわばると、首に激しい“コリ”を感じます。思春期の子は嫌がるかもしれませんが『まあまあ、いいじゃない』と言って首の後ろを揉んであげてください。我が子の首元がガチガチに固まっていれば、それは強いストレスを抱えている証拠。それを指摘すれば、相手がいったい何にストレスを感じているのか、話を聞くきっかけにもなります」(同)

 子どもを褒める、マッサージをする。河本氏の提案する解決策の本質は、親子のコミュニケーション不足の解消を意味している。

 「以前話題になった“親ガチャ”という言葉は、家庭の経済状況や両親の学歴の高さを意味していました。ただ、私は多くの中流・富裕家庭と接してきて、ステータスが高い家庭ほど壊れやすい、やっぱり“ほどほど”がいいのでは、と思わずにはいられません」(同)

誰もが羨むあの家族にも、表に見えない歪みが存在しているのかもしれない。『我が子の気持ちがわからない』は、そんな家庭の処方箋となるはずだ。

(文=真島加代/清談社)

清談社

清談社

せいだんしゃ/紙媒体、WEBメディアの企画、編集、原稿執筆などを手がける編集プロダクション。特徴はオフィスに猫が4匹いること。
株式会社清談社

『我が子の気持ちがわからない 中流・富裕家庭の歪んだ親子関係を修復に導く17のケーススタディ』 無反応、進路変更、スマホ依存、発達障害、家庭内暴力、不登校、引きこもり――。いま、子育ての問題は複雑多様化している。これほど子供のことを第一に考えているのに、これほど有益な環境を与えているのに、それでも我が子の気持ちがわからないと嘆く親は少なくない。本書は、教育現場に30年以上携わってきた筆者が貧困とは無縁でありながら、子育てに深刻に悩む親を対象に、具体的な17の事例を提示し、そのあるべき対処法を述べた1冊だ。重要なことは、子供は親のコピーではないという当たり前の認識。そのうえで考えてみよう。あなたは我が子の長所をいくつ言えるだろうか? 親の正しい理解と接し方で、悩める家庭に会話と笑顔は必ず戻る。 amazon_associate_logo.jpg

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