キャリア女性のHさんは、ストリップとカラオケスナックが大好きだ…一夜同行したら最高だった
腹を満たしたところでストリップ小屋に向かう。もっと繁華街のなかにあるのかと思っていたら、少し町外れの暗い場所にある。昔は遊郭街だったという。そこに小屋の照明だけが光っている。切符を買い、中に入る。客席はほぼ満席。女性はHさんだけ。男性たちの年齢は40代前後か。彼女と並んで席に着く。私はストリップを見るのは十数年ぶりだ。しかもこんな近くで見るのは初めてである。
ストリッパーの汗に私も一瞬でやられた。七色に輝く汗が体から飛び散る。それがきれいだった。
着席してから2人目にHさんのお目当ての踊り子さんが登場。踊りが終わると撮影タイムがある。男性たちが次々と踊り子をポラロイドで撮影したり、踊り子とツーショットを撮ったりする。Hさんは「私も行ってきます」と言って、列に並んだ。「へえ、そこまでするんだ!」と私は驚いた。他の男性客も驚いたと思うのだが、表情にはそういう驚きは見られない。もしかすると、ほかにもこういう女性客が来るのだろうか。
順番が回ってくると、Hさんは踊り子さんと「前も1度お会いしましたか」「ええ、前回も川崎で」と会話し、握手し、ポラロイドでツーショットを撮ってもらった。
3番目の踊り子さんを見てから小屋を出た。そしてHさんの自宅のある都内のJR沿線の駅近くのスナック街へ。彼女はスナックも好きなのだ。
これまた今日で3回目という店に入る。銀座で働いていたという、美人で言葉遣いも上品な着物姿のママさんが仕切る。
「あら、いらっしゃい。今日は男性とご一緒ね」とママ。
「はい、娘の素行調査で」と私。
「それで底に来たんですね」と常連客。このスナック街は地形が崖から急に下ったところにあり、「底」のようだからだ。
ママは名前を「文子」(ふみこ)という。若尾文子好きなHさんにはうってつけの名前。食品管理者の名札に達筆で名前が書いてある。さすが元銀座のホステス。そういえば川崎の飲食街には「若尾」というスナックもあった。
さて常連の4人はすでにカラオケタイム。さっそくHさんはペドロ・アンド・カプリシャスの「別れの朝」と神楽坂はん子の「ゲイシャ・ワルツ」を歌う。私もついでに「矢切の渡し」と「氷雨」を披露。常連たちは、美空ひばりを歌う女性や、シャンソンを歌う男性など、持ち歌を次々歌う。新参者の通過儀礼なのか、常連のおじさんは自分の好きな曲をリクエストしては私たちに歌わせる。Hさんは高橋真梨子の「桃色吐息」、私は「愛の讃歌」。
大衆酒場、ストリップ、カラオケスナックという昭和の川崎の労働者の王道を歩んだ一夜だった。酒は何杯飲んだかな。
(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)