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「ダイヤモンド」vs「東洋経済」! 経済誌双璧比べ読み(7月第1週)

夏の旅行でLCCを使うと2万円損!?のカラクリ

post_354.jpg(右)「週刊ダイヤモンド 7/7号」
(左)「週刊東洋経済 7/7号」
パック旅行に負けたLCC!?

「週刊ダイヤモンド 7/7号」の大特集は「エアライン LCCを使い倒せ!」だ。2012年は「LCC(Low-Cost Carrier:格安航空会社)元年」といわれていて、関西では3月にピーチ・アビエーションが就航しているが、首都圏でも7月3日にジェットスター・ジャパンが、8月1日にはエアアジア・ジャパンが運航を始める。その価格たるや、ジェットスターで成田-札幌4490円、成田-福岡5090円と、まさに「空飛ぶ路線バス」なのだ。

 価格の安さを売りにして新たな需要を創出し始めているという。すでに運航を開始したピーチ・アビエーションによれば、搭乗者の2~4割が人生初フライト組だという。また、「路線バス」のように気軽に利用する人が増えるなど、ライフスタイルに変化をもたらすのではないかと期待されている。

 LCCの低価格の理由は、単一機材を使用した2地点間運行(折り返し運行)、狭い座席と簡素なサービス、短い折り返し時間による運航効率化、インターネットを中心としたマーケティング、従業員の複数業務兼務(マルチタスク)化など徹底したコストカットにある。レガシーキャリアといわれるこれまでの大手航空会社との大きな違いは、運賃設定のプロセスだ。JALやANAの国内線の平均搭乗率はおおむね60%、これに対してLCCの平均搭乗率は約80%。つまりレガシーキャリアは空席が4割でも採算が取れるが、LCCはできるだけ搭乗率100%を目指す収益構造となっているのだ。

 価格は変動運賃制で、コンピュータシステムで常に予約状況を管理し、空席割合に応じて運賃が上下する仕組み。半年先の早期予約や閑散期は、驚くほど安い価格になることがあるという。本格的なLCCユーザーは「クリスマス休暇の前に、来夏のバケーションの予約を入れておく」のだという。残席を減らすために定期的な在庫一掃セールも行われるために、「予約時期」とタイミングが大事だ。

 今回の目玉は「LCCは本当にお得か?」という徹底比較記事だ。確かにLCCは航空機の運賃だけで比較すると安い。ただし、「航空券だけでなく、ホテルなどのほかの手配が必要なケース」では、LCCよりも既存のパック旅行のほうが安くなることも多い。レガシーキャリアは旅行会社がパック旅行を企画する際には正規運賃よりも大幅に安い価格で卸しているために、こうした価格で設定されたパック旅行などでは、LCCとの間で価格差がつかなくなってくる。

 さらに空港使用料を抑えるために、LCCは利便性の悪い第二空港を利用しているが、このために、空港までの移動などの手配コストや所要時間も増加してしまう。今回の徹底比較でもLCCは決してお得ではない。

 たとえば、「4人家族でゆっくり3泊4日の北海道の旅」では、LCC+レンタカーの13万1480円に比べ、パック旅行は11万7603円と、ホテル代とレンタカー代で割高になってしまう。交通機関の利用時間もLCCでは10時間35分だが、パック旅行では7時間40分と短く済む。

「女子3人組2泊3日のソウルでエステ三昧ツアー」では、LCCは5万1770円だが、パック旅行では4万2220円で済んでしまう。交通機関の利用時間では、LCCとパック旅行は7時間40~50分とほぼ変わらないが、格安航空券は6時間55分で済んでしまう。その格安航空券を自ら購入して組んだ旅行の合計金額も5万1260円とLCCよりも安いのだ。

 これまでも、「旅行の際は、航空券だけを購入するよりも、ホテルの宿泊代も含んだパック料金のほうが安く済む」といわれてきたが、この旅の知恵は健在のようだ。

 こうなると、LCCの問題点も目につくようになる。まず、「コスト削減」はこれまで大事故につながってきた主因のひとつだが、LCCの場合は整備コストを安く済ませるために新造機を使っている。しばらくは安全面で危惧することはなさそうだ。一方、懸念が大きいのは、定時性で劣ることだ。LCCの低価格の理由は単一機材を使用した2地点間運行(折り返し運行)、このため、部品の不具合があっても、代替機で対応するなどの余裕がなく、大幅な遅延か欠航になってしまうのだ。欠航になれば、払い戻しには応じるが他社便への振り替えもなく、次の便を待つしかない……などとリスクを考えるとLCCに向いているのは、ただ飛行機に乗るだけの初フライト組か、若者のバックパッカー旅行くらいしかないのではないか。

「安いから遅延も仕方がないと、卑屈になっていく」と語るのは、100回以上はLCCに乗ったという旅行作家の下川裕治氏。氏のコラム「安さの裏にいわれなきストレス LCCに乗るたび募る不快感」によれば、ある時からLCCに乗らなければいけないと思うと気分が落ち込んでくるようになったという。パソコン上の予約指定の段階でも、不用意にオプションを指定すると、料金が加算されてしまうなどLCCは収益を増やすための罠を随所に仕掛けているのだという。

 氏がLCCに期待するのは、レガシーキャリアがLCCに対抗するために同一路線の運賃を下げる「LCC効果」だけだというが、たしかにその通りかもしれない。

 この特集を読んでLCCに興味がなくなった(もしくは最初から興味がない)方は「日経ビジネス 7/2号」特集『エグゼクティブが選ぶベストエアライン 世界の空、争奪戦』を読むほうが役に立つかもしれない。今や、世界の都市を南北、東西に移動しやすい位置にある中東は欧州のハブ機能を目指して猛攻を仕掛けている。航空業界の再編劇の台風の目も中東の航空会社だという。なお、注目のエグゼクティブが選ぶベストエアラインは1位・シンガポール航空、2位・エミレーツ航空、3位・スイス・インターナショナル・エアラインズ、4位・全日空グループ、5位・ルフトハンザ航空、6位・日本航空グループとなっている。

長いだけでスカスカな東大特集!

 残念だったのは「週刊東洋経済 7/7号」の大特集『全解明 東京大学』だ。通常は第二特集もあるのだが、今回は第二特集を飛ばしてまで、47ページに及び東大の特集を組んだ。早ければ17年から実施される秋入学。実現されれば就職活動の形態だけでなく、日本の社会構造そのものの変化を促すことになる。独立行政法人化したとはいえ、毎年約800億円の国費が投入される教育機関の社会への影響はどの程度あるのかを毎年秋に特集する「本当に強い大学」とは別の切り口で迫ったものだ。

 しかし、残念ながら単なるデータ原稿を読まされ続けた印象しか残らないのだ。データ原稿とは、取材記者が取材してきたメモを簡単な原稿にまとめたもので、それをもとにして編集部の編集方針に合わせて、実際の原稿化するものなのだが、今回の特集に関しては記者のメモのレベルの内容が多い。

 東大では1~2年次の点数で3~4年次の学科が決まる進学振り分け(進振り)という制度がある。たとえば、大学入試の文系最難関とされる文科Ⅰ類(1~2年次・文Ⅰ)は、キャリア官僚コースとなる法学部(3~4年次)に自動的に進学できるわけではない。このため勉強をしないでテクニックで安直に点をとれる先生の授業をとる傾向がある。1年生のクラスでは「シケ対(試験対策委員)を決めて、試験対策プリント(シケプリ)をネットでやりとりする。それどころか希望学部を目指し、試験対策のために、入学と同時に予備校に通う学生も多い……要領のいい学生が得をする「東京大学システム」があるのだという。

 こんな話を『「駒場はムダな2年間」? 東大・教養課程の功罪』『希望学部目指し試験対策 入学と同時に予備校通いも』『東大卒業生覆面座談会』などと、えんえんと紹介するのだが、学部生にしか役に立たない話は学生新聞でやるレベルではないだろうか? こうした内容を繰り返すので、ページが薄まっていってしまうのだ。

 それよりも、法学部、経済学部、文学部、教育学部、教養学部はどのような人材を生み出し、社会に影響を与えるのかを紹介してほしい。唯一『「東大・法」は特権集団に入るためのパスポート』という記事で法学部だけは紹介している。新日本製鉄、東京電力、三井物産の歴代社長は東大が多く、なかでも東京電力の社長は東大法出身者ばかりだ(ただし、勝俣恒久前会長は東大の経済学部、清水正孝前社長は慶応大学出身だ)。では、東大の経済学部はどんなパスポートなのか、文学部はどんなパスポートなのか、政治、金融、社会への影響を解説してほしいのだが、そういったページはない。

 また、最近の成功モデルとして紹介しているのは、藤井清孝(ベタープレイス・ジャパン社長)、松本大(マネックスグループCEO)、岩瀬大輔(ライフネット生命保険副社長)などといった面々だが、3人とも法学部卒業だ。これでは、「東大法学部」の研究にすぎないだろう。

 東大の世界的な地位の低下を嘆くわりには、外国の大学との教育レベルの比較もイェール大学を簡単に紹介する程度で貧弱だ。東洋経済の編集部には『米国製エリートは本当にすごいのか?』の著者・佐々木紀彦記者もいるはずではないか。スタンフォード大学の留学経験を書いていた著書では、日本の教育に関して自説を展開していたのではなかったか。いままで、東洋経済ではその自説の片鱗が感じられないのが不思議だ(ただし、佐々木記者の自説は書生論の域を出ていないが)。

 今回の特集は、どうも東大の表面をなぞっただけの特集に終始してしまった。この物足りなさの理由を考えようと、署名ライターの経歴を調べてみた。すると、私大卒の面々だということが判明した(佐々木記者も慶応だ)。思うに、編集にかかわったスタッフに東大出身が少なく、本気になって実感のこもった取材をしたようには思えないのだ。

 なお、私も私大出身で、もとから東大にはさほど思い入れがない。だからこそ、私が取材するとしても表面的な情報を集めて満足してしまいかねないのだ(本質には、内部を知っている人間のほうが早く迫ることができる)。

 また、ライター・編集者によっては、東大に複雑な感情を持っている人物も多いだろう。だからこそ、こうした学校モノの取材の時には、スタッフクレジットに学歴を入れてほしいものだ。
(文=松井克明/CFP)

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BusinessJournal編集部

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