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江川紹子の「事件ウオッチ」第116回

「BTS問題」を嫌韓に利用する愚行から離れて…江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト
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「BTS問題」を嫌韓に利用する愚行から離れて…江川紹子の提言の画像1防弾少年団/BTS(写真:アフロ)

 韓国の男性アイドルグループBTS(防弾少年団)が、原爆の写真がプリントされたTシャツやナチスをイメージするパフォーマンスなどで批判された問題。“原爆Tシャツ”を着た当人が東京ドームで開かれたライブで謝罪したほか、所属事務所が反省と謝罪の文書を発表した。これで騒動としては一件落着なのだろうが、いくつか気になることも残っている。

原爆投下をめぐる韓国社会の歴史認識

 嫌韓筋は、原爆Tシャツをネタに、BTSは反日だと大盛り上がりだったが、このアイドルグループにそういう憎悪感情があるわけではなく、原爆投下に対する韓国社会の歴史認識が反映された出来事だったのだと思う。

 原爆投下が、日本に降伏の決意をさせ、戦争を終結させたという“神話”がある。確かに、満身創痍だった日本にとって、「新型爆弾」による広島、長崎の被害が痛手でなかったはずはない。しかし、なかなかふんぎりがつかなかった日本政府と軍部に無条件降服を決断させたのは、それよりもむしろソ連の対日参戦だった。

 絶望的な戦況に追い込まれていた当時の日本政府にとって、唯一の望みはソ連を仲介役にした和平交渉だった。無条件降伏を避けるべく、日ソ中立条約を頼みに、条件付きの降服を模索しようとしていたのだ。

 そんななか、ソ連は1945年8月8日に突如、対日宣戦布告を行い、翌日150万の兵が国境を越えて満州に攻め入った。ソ連からは条約の期限延長を拒否する意向は伝えられていたが、破棄通告は1年前とされていたため、日本にとっては不意打ちとなった。兵力の多くを南方に投入していたこともあり、関東軍はほとんど抵抗できなかった。これにより、日本側は10万人の死傷者を出し、20万が捕虜となりシベリアに抑留されることになった。

 昭和天皇実録でも、ソ連の参戦によって万策尽きたと判断した昭和天皇が、すぐさま側近に対応を指示した様が記録されている。原爆のような非人道的な兵器を使わずとも、日本は無条件降伏を免れなかった。

 それをあえて、アメリカが原爆を使用したのは、終戦を決定づけたソ連参戦の意義を薄め、戦後のソ連の影響力を削ぐためだった。終戦前から、戦後の米ソ覇権争いは始まっていたのである。

 アメリカでは今でも、原爆こそが戦争終結を早め、米兵のみならず多くの日本国民の命を救ったとして、使用を正当化する考え方は根強い(もっとも、最近はこうした考えにも変化が出ていて、若い世代は原爆投下を「間違っていた」と考える人が「正しかった」とする人を上回る世論調査結果も出ている)。

 韓国でも、原爆が日本の降服を導き、それによって自国が解放されたと理解している人々が、まだまだ多いようだ。

 BTSのメンバーが着ていて問題になったTシャツは、日本の統治からの解放日とされる8月15日の光復節を記念して昨年つくられたもので、原爆の写真のほか、「愛国心(PATRIOTISM)」「我等の歴史(OURHISTORY)」「解放(LIBERATION)」などの文字と、解放を喜ぶ人々の写真がプリントされていた。

 Tシャツのデザイナーは、「反日感情と日本に対する報復のために作製したデザインではなかった」としながら「原爆が投下されて日本の無条件降伏により光復がもたらされたという歴史的な事実と順序を表現するためのものだった」と説明している(韓国の中央日報日本語電子版より)。

 今回の騒動となったTシャツの写真を見て、多くの韓国人が痛快さを感じたというのも、原爆と自国の解放を結びつけているからだろう。そのために、原爆の非人道性に関心が向かない。韓国では関連ニュースに次のようなコメントが寄せられた、という。

「日本はもう1発食らうべきだ」「侵略者にそれくらいしてもいいじゃないか」「愛国心によるものなのに、何が問題なのか」(朝鮮日報日本語電子版より)

 極めて残念な話だ。

 こうした韓国の状況について、ハンギョレ新聞日本語電子版は識者の談話を紹介し、こう評している。

「韓国社会は原爆が解放をもたらしたという『光復フレーム』に閉じ込められていて、核兵器そのものの非倫理性には鈍感になっている」

 朝鮮半島出身者など、日本人以外で原爆の犠牲になった人たちもたくさんいる。このハンギョレ新聞の記事によれば、広島・長崎で約7万人の朝鮮人が被曝し、うち4万人以上が死亡した。日本の広島で生まれて被爆被害を受けた韓国人被爆者団体の代表が同紙の電話インタビューに答え、「原爆写真は光復の象徴として適切ではない。韓国は被爆者2400人以上が依然として生存している国だ。原爆が“痛快”なことではないはずだ」と語っている。

 今回の騒動が、韓国国内にもこうした被爆者の声を伝え、人々がこれまでの歴史認識を見直し、核兵器についても考えるきっかけになってほしい。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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