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杉江弘「機長の目」

ボーイングやエアバスの最新ハイテク航空機、悲惨な墜落事故が多発している理由

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 したがって、冬期運航などのようにある条件の下では、これまで起きていた事故を防ぐように設計が施されていたといえるが、AOAセンサーなどにトラブルが発生すると、手動操縦中であってもスタビライザーにランナウェーと呼ばれる連続的な動きを発生させ、機を異常な状態に陥らせるという負の側面があったといえる。したがって、ボーイングは737MAXの導入にあたり、これらの点の教育とシュミレーターを使って緊急時訓練を課す必要があったといえる。

 さて、私は今回のライオン航空の事故を受け、脳裏をよぎった過去の大事故がある。以下、それを紹介したい。

名古屋空港での中華航空機事故の真相


 1994年4月26日、台北から名古屋に向けて夜間最終進入中の中華航空140便(乗客乗員271名)が、異常な機首上げによって失速、墜落、炎上し多数の死傷者を出した事故。原因はエアバスA300-600型に新しく導入された自動化システムにあった。当時、操縦桿を握っていた副操縦士がスラストレバーにあるオートスロットル(エンジンの出力調整を行う)をOFFにしようとして、誤ってそばにあるゴーボタンを押してしまったことで異変が起きた。

 ゴーボタンを押すと、機はその時点で急上昇モードになり、エンジンは全開となり機首を上げて高度をぐんぐん上げていく。いわゆるゴーアラウンド(進入復行)である。しかしパイロットからしてみれば、名古屋空港は視界良好。空港のライト類もまぶしく眼下に輝いていた。高度は1000フィート(300メートル)、あと約3分で着陸できるところにいた。

 悪天候などでよく実施するゴーアラウンドをする理由は何ひとつない。そのため、副操縦士は、急上昇を止めて降下させるべく、途中から機長も加わって操縦桿を前に押す操作を行ったのである。

 一般の旅客機ならある一定の力が加わると自動操縦装置は解除され、手動で降下体制に切り替えることができる。しかし、エアバスA300-600の自動操縦装置ではパイロットが一旦ゴースイッチを押せば、いくら力いっぱい操縦桿を押しても解除されないばかりか、コンピューターはすでにゴーアラウンドモードに入っているのに、それに反して加わった逆の力(入力)を誤りと判断して、さらに機首を上げていくロジックになっていたのである。

 そのとき、パイロットが着陸をあきらめていれば事故は起こらなかった。しかし、空港は目の前で天気も良い。なんとか急降下して着陸したいと思うのが人情だ。2人はさらに操縦桿を押して、自動操縦下であっても修正ができると考えたのである。

 しかし、コンピューターは再びこの入力を誤りと判断して、さらに機首を上げる。このようなコンピューターとパイロットとの格闘が続いていたものの、最後は急激な機首上げによる失速という事態に発展し、滑走路の一歩手前の地面に激突、炎上する結果となってしまったのである。

 この事故を受けてエアバスは、パイロットの不適切な操縦が原因であると主張したが、パイロットは新しく導入されたロジックを知らないまま操縦にあたっていたことが判明した。私も当時、日本でも同型機を運航していた旧日本エアシステムのパイロットに聞いてみたが、驚きをもってメーカーのマニュアルを読み返したという。すると、マニュアルの片隅に小さく注意事項として確かに書かれているのを発見したが、よく理解していなかったようだ。

 明らかなことは、メーカーはこれまでと異なった新しいロジックを導入したのにパイロットに十分な教育や周知徹底を行っていなかったことに加え、シミュレーター訓練でもそのロジックを経験させていなかったことだ。

 さらに名古屋の事故以前にも同じトラブルにより、あわや墜落といった重大インシデントが海外で3件発生していたにもかかわらず、世界中のユーザーに注意を喚起していなかったことも問題となった。

 日本の事故調査委員会はエアバスに対し、パイロットが操縦桿を力いっぱい操作したら自動操縦装置が解除されるようにシステムの改修を勧告したものの、当初はそれを拒否、しぶしぶ改修を受け入れたのは、それから約3年後になった経緯がある。メーカーは事故があったからといって、そう簡単にシステムの改修に手をつけないのが航空界の特徴なのである。

パイロット不在の設計がもたらす悲劇は続く


 紹介した2件の事故は、いずれもパイロットがロジックを知らないまま運航していたという一般には信じられないことに特徴がある。

 メーカーは他社との競争のなかで、次から次へと新しく機材を開発しているが、客室内の仕様だけでなく操縦室のなかでの計器類や自動操縦システムにも、今までにない新しいロジックが組み込まれていることがある。

 しかし、現実にはパイロットがそれを十分に理解せず、あるいは訓練も十分に受けることなく乗客を乗せて飛ばしているのだ。「優秀な設計者たち」が便利なようにと新しい機能を付け加えていても、彼らはパイロットではない。とっさの時にパイロットがどう判断して行動するのか、いわば人間の本能を予測した設計になっていないのである。

 1980年代以降、それまで機内でシステムを担当する航空機関士を合理化して2人のパイロットだけで操縦する、いわゆるハイテク機が登場して以来、多種多様なモードの使い方のミスや計器だけの故障でパイロットが混乱して、誤った操作を行い墜落するといった事故が相次いだ。

 それらについて多くの識者は“ハイテク機の落とし穴”と表現してきたが、その原因はパイロット不在の設計思想やロジックにある。

 中華航空機やライオン航空機のケースのように、コンピューターとパイロットが操縦をめぐって格闘しなければならない異常な光景は、もうこれで最後にしてほしいと怒りを込めて告発したい。このような不幸をなくすためには、現場のパイロットが航空会社を通してメーカーにパイロットの意見を伝え、メーカーはそれらを聞いて設計すること、新しい設計思想やロジックについては十分な説明を保証するように要求することが重要である。

 そしてパイロットはそれらを納得できるまで、シミュレーターなどを用いた十分な訓練を自らに課すといった、厳しい姿勢で臨むことが求められている。

 多くの乗客を乗せたライン運航を、新しい機材の実験場としてはならないはずだ。世界のエアラインパイロットには、今こそプロフェッショナリズムを発揮して、事故をなくすべく行動してもらいたいと願っている。
(文=杉江弘/航空評論家、元日本航空機長)

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