昭和の喫茶店の魅力
でも、昭和という時代や、昭和の喫茶店の何がそんなに魅力なのか。
「昭和のなかでも、高度成長期の日本に関心があって、イメージではありますが、どんな人にも平等にチャンスがあって、がんばればきちんと報われたような夢のある時代。今よりいろいろなことが不便で大変なこともたくさんあったのだとは思いますが……。大阪万博の頃など、未来への憧れがはっきりしていた時代を体験してみたかったです」
当時はなんでもピカピカの新品がどんどん発売され、レトロなんてなかった時代だが「その当時のことや、喫茶店が大繁盛していた時代を想像するのが好きで、想い出を美化しているのかもしれませんが、やっぱり、その時代に行ってみたい」と言う。
一方で「かつて盛況だった喫茶店が少しさびれてしまって、はかなくなっている感じがまた好きで。だから、あまり人が多くないところ、かつて栄えてその役目を終えてひっそりと廃墟のようになった観光地や遊園地、ビルなども好き。ぴかぴかした新品より、なんでも少し時間を感じられるもの。昭和歌謡、さびれた商店街や市場、遊郭跡、廃墟も好き」だと言う。
世の中がどんどんデジタル化して、ストレスが増えて、それで昭和の喫茶店でほっとしたくなるのか。
「デジタルやITはもっと進んでもいいと思っているんです。それで暮らしやすくなるなら、どんどん便利にしてもらって。それこそ「どこでもドア」で家から一瞬で地方の喫茶店に行けるならいいですよね(笑)。そうやって空いた時間をゆっくり喫茶店で過ごすとか、ほかのことに使えるなら良いですよね」
一種の時間消費なのだろう。忙しい現実を生きていながらも、わずか数十分間、時間が止まったような空間で過ごす。かつての全盛期を越えたゆえの落ち着きを備えた家具や雑貨、そしてベテランの店主たちに癒される。それが昭和喫茶の魅力らしい。
(文=三浦展/カルチャースタディーズ研究所代表)