乳幼児期の自己コントロール教育、大人時の収入増に影響…知的学力より非認知的能力が重要
そして、子どもの非認知的能力と親の社会経済的地位との間には相関はみられないことから、非認知的能力と社会経済的地位は、それぞれ独立に学力に影響を及ぼしていることがわかる。
そこからいえるのは、学力は親の学歴や収入に規定されるものの、たとえ親の学歴や収入が高くなくても、子どもの非認知的能力を高めることができさえすれば、学力を高めることができるということである。
では、非認知的能力とは、どんな能力なのか。
この調査では、非認知的能力は、つぎのような心理傾向を指すものとして測定されている。
・ものごとを最後までやり遂げて、うれしかったことがある
・難しいことでも、失敗を恐れないで挑戦している
・自分には、よいところがあると思う
・友だちの前で自分の考えや意見を発表することは得意だ
・友だちと話し合うとき、友だちの話や意見を最後まで聞くことができる
・友だちと話し合うとき、友だちの考えを受け止めて、自分の考えをもつことができる
この調査のデータによれば、「子どもに努力することの大切さを伝えている」「子どもに最後までやり抜くことの大切さを伝えている」といった親による働きかけが、子どもの非認知的能力の高さにつながっている。
そうはいっても、非認知的能力というのは耳慣れない言葉だ。それがいったいなんなのか、まだよくつかめないという人も多いのではないだろうか。そこで、非認知的能力について、もう少し具体的に考えてみよう。
非認知的能力の中核にあるのは「自己コントロール力」
非認知的能力というのは、自分を動機づける能力、長期的な視野で行動する能力、自分を信じる能力、他者を信頼する能力、自分の感情をコントロールする能力などである。
これらは、まさにEQ(心理学ではEI=情動的知性と言うが、IQとの対比で一般にはEQと呼ばれている。心の知能指数などとも言われる)に相当するものといえる。EQの核となる要素のひとつが自己コントロール力だが、最新の心理学研究でも、自己コントロール力が人生の成功を大きく左右することが強調されている。
アメリカの心理学者テリー・モフィットは、1000人の子どもを対象に、生まれたときから32年間にわたって追跡調査を行い、子ども時代の自己コントロール力が将来の健康や富や犯罪を予測することを発見している。
つまり、我慢する力、衝動をコントロールする力、必要に応じて感情表現を抑制する力など、自己コントロール力が高いほど、大人になってから健康度が高く、収入が高く、罪を犯すことが少ないことがわかったのである。
忍耐力や衝動コントロール力など自己コントロール力があるほど、勉強にも仕事にも粘り強く取り組めるため、潜在能力を十分に生かすことができるだろうことは想像にかたくない。また、そうした自己コントロール力があるほど、人とのトラブルも少なく、公私にわたる人間関係を良好に保つことができるだろう。
このような自己コントロール力は、まさに日本の子育てや教育において伝統的に重視されてきたものといえる。
日本の教育界では、何かにつけて欧米式を導入したがる傾向があるが、OECD(経済協力開発機構)による学力調査でも日本人は非常に学力が高いことが示されているし、日本人の勤勉さや仕事の質の高さは世界的にも定評がある。
これまで知的能力ばかりを重視してきたアメリカでは、いくらIQが高くても、忍耐力や衝動コントロール力といった自己コントロール力が高くなければ社会的に成功できないと言われ始めている。
日本では、自己コントロール力を重視する子育てや教育が伝統的に行われてきたのに、それを軽視するばかりか、自己主張の教育などといって、そこから脱しようとする動きさえある。
このところの日本では、生徒や学生の学力低下や学習時間の少なさが目立ち、また新社会人のストレス耐性の低さが話題となっているが、そうした問題は、このあたりの勘違いによるところが大きいのではないだろうか。
こうしてみると、学校生活も順調に乗り切り、自分らしい進路を切り開いていってほしい、大人になってからの職業生活や私的な人間関係もうまくやっていける人間に育ってほしいと思うなら、日本の伝統的な子育ての良さを再認識する必要がありそうだ。
(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)