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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」第46回

「令和」だけじゃない…元号以外の日本独自の“もうひとつの暦”

文=篠崎靖男/指揮者
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日本の“もうひとつの”暦

 さて、日本は天皇陛下が変わるたびに元号が変わりますが、欧米ではどうして変わらないのでしょうか。「自分の元号をつくる」と言い出す権力者が出てきても不思議ではないように思います。しかし、どんなに偉くなって、たとえ元号を制定するほどになっても、ひとりだけ叶わない人物がいます。それはずばり、イエス・キリストです。そして、その神の子・キリストにちなんだ元号があるから、それを変えるわけにはいかないのです。

 それは、西暦です。「2020年東京オリンピック」などと使われる西暦です。「なんだ、知っていたよ」という読者の方々も多いかと思いますが、今年の西暦を正確に言うと、A.C.2019です。ちなみに、「A.C.」の語源は、ラテン語のAnno Dominiの頭文字で、その意味は、「主(=キリスト)の年」です。そこから1年1年カウントしているのが西暦です。しかも、欧米をはじめとしたキリスト教社会では、キリストは最後の救世主とされているので、未来永劫、元号が変わることはありません。ちなみに、「紀元前」を意味する「B.C.」は、Before Christ(キリスト以前)です。

 しかし、これはキリスト教社会での話。イスラム教では、キリストは預言者のひとりでしかなく、ムハンマドが最終的な救世主とされているので、西暦ではなく「ヒジュラ暦」を使います。これは、ムハンマドがメッカからメディナに聖都を移した西暦622年を元年としています。

 他方、日本は元号以外にも暦を持っていることをご存じでしょうか。明治5(1872)年に、日本も欧米に負けじと制定された「皇紀」です。正式には、「神武天皇即位紀元」という名前で、その名の通り神武天皇が初代天皇に即位した紀元前660年を元年とします。

 昭和15(1940)年、皇紀2600年を迎えたことで、日本政府は欧米の主要国に祝賀の音楽の作曲を依頼します。英国はブリテン、フランスはイベールが作曲したというだけでも驚きますが、同盟国ドイツからは、なんと国を代表する作曲家であるリヒャルト・シュトラウスが曲を寄せたのです。さらに、イタリア、ハンガリーも加え、5カ国の世界的作曲家が各々「皇紀2600年奉祝曲」を作曲し、同年12月7日と8日に東京歌舞伎座で初演されたのです。

 昭和15年といえば、ナチス・ドイツはフランスに侵攻して6月にパリを陥落し、英国とも戦争をしていました。日本はドイツ、イタリアとともに「三国同盟」を結んだ年です。そんな年に、東京歌舞伎座の中では、国々の間のいさかいも関係なく、音楽が鳴り響いたのです。

 そして実は、もう1カ国、日本が作曲を依頼した国がありました。それはアメリカ合衆国です。しかし、残念ながら国交悪化を理由に断られてしまいます。そして、翌年の12月8日、日本はアメリカ、英国と開戦します。

 もし、アメリカが作曲を承諾してくれていたとしたら、作曲家は誰になったでしょうか。ちなみに、アメリカではグレン・ミラーが、代表曲『イン・ザ・ムード』を作曲していたころで、最盛期を迎えていました。
(文=篠崎靖男/指揮者)

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

篠﨑靖男/指揮者、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師

 桐朋学園大学卒業。1993年ペドロッティ国際指揮者コンクール最高位。ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクールで第2位を受賞し、ヘルシンキ・フィルを指揮してヨーロッパにデビュー。 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後ロンドンに本拠を移し、ロンドン・フィル、BBCフィル、フランクフルト放送響、ボーンマス響、フィンランド放送響、スウェーデン放送響、ドイツ・マグデブルク・フィル、南アフリカ共和国のKZNフィル、ヨハネスブルグ・フィル、ケープタウン・フィルなど、日本国内はもとより各国の主要オーケストラを指揮。2007年から2014年7月に勇退するまで7年半、フィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者としてオーケストラの目覚しい発展を支え、2014年9月から2018年3月まで静岡響のミュージック・アドバイザーと常任指揮者を務めるなど、国内外で活躍を続けている。現在、桐朋学園大学音楽学部非常勤講師(指揮専攻)として後進の指導に当たっている。エガミ・アートオフィス所属

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