いうまでもなく租税法律主義は、日本国憲法にも定められている。「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と述べた第84条がそれだ。
具体的に法律で決めなければならない事項は、納税義務者、課税物件(何に課税するか)、課税標準(所得金額など税額算定の基礎)、税率、賦課・徴収の手続きなどである。
さて、インフレ税はこれらの要件を定めた法律が、国会で制定されているだろうか。もちろん、ない。
日本の場合、上述のようにインフレ税は日銀の国債買い入れによって実現している。しかし少なくとも建前上、日銀はインフレ税を稼ぐために国債を買っているわけではない。あくまでも金融政策の手段にすぎないとしている。だからインフレ税を定めた法律に基づいてやっているわけではないし、そのような法律もない。
それ以前にインフレ税は、法律で要件を定めようとしても、ほとんど不可能である。納税義務者はお金を保有する人、課税物件はお金だとしても、税率を定めるのは無理である。
物価はすべての商品が同じ率で上がるわけではないから、人によって影響が異なる。つまり、人によって税率が異なることになる。しかもそれが何%かはっきりしない。
賦課・徴収の手続きに至っては、そもそも手続きが存在しない。国民は手持ちのお金の価値が、インフレでいつの間にか減っているのに気づくだけである。適正な徴税手続きの観点から、とうてい許容されないだろう。
ようするに、インフレ税は憲法で定める租税法律主義を満たしていないし、満たすこともできない。近代国家の原則に反する、憲法違反の「税」なのである。
したがって、日銀の国債買い入れによる事実上のインフレ税は、一部エコノミストのように推奨するどころか、厳しくいえば違憲行為としてすみやかに中止しなければならない。
普通の税よりもたちが悪い
こうした意見に対しては、インフレ税を支持する人々から「お前は普通の増税を支持するのか」という非難が予想される。しかし、それは矛盾でしかない。普通の税もインフレ税も、税であることに変わりはないからだ。